日本人間ドック学会と健康保険組合連合会による「健康な人」の基準値の発表をうけて、「健康な人」の血圧やLDLコレステロール値などが報道され、これまでの治療基準をどのように考えたらよいのか混乱し不安になっておられる方もおられると思います。
今回、「健康な人」の血圧値は147/94 mmHg以下と発表されました。それでは「健康な人」とはどのような人でしょうか。この解析では、非喫煙者で飲酒1日1合以下、がんや慢性肝疾患、腎臓疾患などの既往がない、過去1ヶ月間入院していない、高血圧や糖尿病などの治療薬を服用していない約1万人の検査値から算出したものです。
いわば「これまでにわかっている病気のない自覚的に健康な人」のデータですから、「この数値まで問題ありませんよ」と言っているのではありませんし、将来の病気の発生は知りませんよという数値なのです。
実際、このデータを公表した以後でも当の人間ドック学会は健康診査の基準値は変更していません。しかし、新聞やテレビなどではこの数値まで治療はいらないかのように報道がなされました。これを期に治療を自己中断し合併症をおこした方も報告されています。
そもそも健康診査を受診する目的は、病気の悪くなりかけや軽度の異常を見つけ出すことです。現在行われている検診の基準値はわれわれ専門医にとっても厳しすぎるのでは?と思うことが多々あります。しかし、異常マークがついていなければ注意関心を払わないのも人の性質なのです。異常値があったらぜひ専門医の意見を聞いてください。専門医は検診で異常値があっても生活指導のみで経過を見ることも少なくありません。
高血圧や高脂血症や糖尿病などの生活習慣病の治療は、将来おこるかもしれない病気を予防することが目的です。別の見方をすればおこらないかもしれないことに対して薬を飲むわけですから、一種の保険をかけるようなものです。具体的に言うと、病気の発生率×病気になった場合の損失(たとえば仕事を休む、半身不随になる、死亡するなど)が10年間の薬の代金に匹敵する価値があるかどうかで治療をおこなうかどうかを判断する必要があります。1000人に1人しか発生しない病気のために1000人が10年間薬を飲み続けるのは誰でもばかげていると思うでしょう。でも10人に1人発生する病気ならどうでしょうか。食べていくのもやっとの貧困国では治療する人はほとんどいないでしょうが、豊かな日本のような先進国では治療を希望する人は多くなります。日本ではあたりまえのこととして治療をおこなえる環境がととのっており、そのおかげで健康長寿が達成できているのです。
結論として、鈴木クリニックの治療の基準は将来の病気の発生率まで考慮した高血圧学会や動脈硬化学会などのガイドラインに従います。検診で異常値がでたら、まず生活習慣を改善することからはじめ、治療を開始するべきかどうかをご相談ください。長期に渡る医療費は決して安くはないので、みなさんのひとりひとりがご自分の状態を十分に理解した上で、治療する価値があるかどうかをご自身で選択することが必要となります。その助けとなるよう鈴木クリニックでは十分に納得のできる説明をいたします。